白ロムを選ぶ理由
このデータも窓意的な使われ方をしている。
当時、私もこのデータを、国会議員に対する説明などで毎日のように使っていたが、この調査自体を直接担当していたわけではなかったので、くわしいことは知らなかった。
しかし、関係者の指摘によれば、患者に対する「医師による直接医療提供頻度」(図表7)の割合を示しているというデータは、じつは「医師による指示の見直しの頻度」であったのだという。
つまり、「医師による直接医療提供頻度」がほとんどないから、療養病床を削減するのだと厚生労働省は説明していたけれども、実際には「医師による指示の見直しの頻度」がほとんどないということであり、指示の「見直し」が必要ないからといって、医療が不要だということにはならない。
さらに、この介護療養病床廃止という方針は、介護事業や療養病床の運営に携わる人たちに十分な相談がなかっただけでなく、厚生労働省内にあっても、医療の必要性の低い患者を介護にまわそうとしている医療サイドの議論と綿密な調整があって決められたわけではない。
実際に、平成十七年十二月になって突然、老健局が介護療養病床を廃止するという方針を出してきたとき、保険局はもっと時間をかけて検討すべきではないかと慎重な姿勢を示したのである。
しかも、介護保険制度は医療制度改革に関する法案が提出される前年に大きな制度改正を行っているが、そのときには介護療養型医療施設の廃止は議論していない。
しかしながら、老健局は、医療制度改革に合わせて進める必要があるということで、法案提出直前になって急遽決定したのである。
こうして削減される病床数が一気に二三万床にまで膨れ上がった。
その「受け皿施設」がなければ、これだけの数の患者が「医療・介護難民」となって行き場を失うことになったのだ。
厚生労働省では、療養病床について、医療提供体制の面からは医政局、医療保険の面からは保険局、さらには介護保険の面からは老健局がそれぞれ関係している。
同じ保険局のなかでも、医療費適正化を担当する総務課のほかに診療報酬を担当している医療課という部署があり、この二つの課が療養病床再編に関係している。
このように多くの部署がかかわってくると、それらの間の調整が円滑に行われず、意思決定がどうしても縦割りになってしまう。
そして無理のある制度設計がなされることになる。
これまで見てきたように、療養病床削減を決めるプロセスはまさにその典型例である。
療養病床の再編は、縦割り行政の弊害により細部にわたるまで十分な対応が練り上げられないままに打ち出された。
そして、法案提出直前になって全体の辻棲合わせが始まり、患者の受け皿施設が整備できるのか不確かなまますべてが決まったという格好になってしまった。
当時、私自身も政策立案にかかわりながら、当初想定していなかった寝耳に水の話が次々と出てきて大変驚いた。
その結果として、場当たり的な対応をつぎはぎしていかざるをえなくなり、全体としてバランスの悪いものになってしまったのである。
場当たり的対応のつぎはぎそれでは次に、具体的にどのようなかたちで場当たり的対応のつぎはぎが行われてきたのかを見ることにしたい。
くりかえし述べてきた医療区分の慈恵的な操作はその代表例であるが、じつはそれ以外にもたくさんある。
ここではそのすべてを紹介しきれないが、そのうちのいくつかを例示してみたい。
少し専門的になるが、療養病床再編計画には時期のずれが非常に目につく。
先ほども述べたように、診療報酬改定は平成十八年度に行われたが、療養病床削減を柱にした医療費適正化計画は平成二十年度からとされている。
そこに二年間のずれがある。
つまり、平成十八年度から病床削減につながるような政策誘導を行っていながら、病床の削減数に関する目標を定めるのはその二年後になっていたのである。
しかも、「病床転換支援策」として医療保険財源を活用した財政支援の枠組みをつくったが、医療費適正化計画や後期高齢者医療制度とセットになっているために、それが活用できるのも平成二十年度からであった。
ということは、診療報酬で療養病床を締めつけていながら、二年間はこの病床転換支援策を利用できなかったのである。
さらに、すでに述べたように介護療養型医療施設は、法律上、平成二十三年度末(平成二十四年三月三十一日)をもって廃止されることになっている。
他方、医療費適正化計画は平成二十年度から始まって五年計画となっているので、療養病床再編計画の終わりは平成二十四年度末なのである。
なぜ医療と介護とで療養病床再編に一年の差をつけなければならないのか。
合理的な説明があろうはずがない。
これらの時期のずれがなぜ生じたのかといえば、そもそも全体像をあらかじめ練り上げてから具体的な政策を立案したのではなく、それぞればらばらに検討したものを最後になって急遽全体像としてまとめあげたからである。
いくら「計画」だといっても、このようなちぐはぐな枠組みでは、医療機関はどのように行動したらいいのか、まったく見通しが立てられずに、困ってしまうであろう。
本当に「受け皿施設」は整備できるのかこれらのわずかな問題点以上に重要なのは、受け皿施設の整備が不確かなままに決められたということだ。
それはもちろん、これまで述べてきたように突然決められたということと深く結びついている。
ふつうであれば、療養病床を削減するとか廃止するという議論をする際には、療養病床再編後の受け皿施設をどういうかたちにするか、それで人々が必要とする医療が確保できるのかという議論があって、その後に廃止・削減の具体的な数字が出てくるはずである。
受け皿施設がないままでは、適切な医療が受けられない人が出てしまう。
当時、「本当に受け皿施設はきちんと整備されるのか」と国会などでもくりかえし質問が行われていた。
こうした質問に対して、厚生労働省は、「今後、都道府県の協力を得て、地域ごとの施設ニーズやあるいは関係者の意向を把握し、地域ごとの計画を立てて、円滑な転換が図られるようにする」とか「療養病床の再編に当たっては、入院、入所されている方々139の不安を招かないよう、適切な対応を図っていきたい」と答えるだけで、本当にそれが可能140なのか、具体的には不確かなままであった。
すべてはこれから検討するという状況だったのだ。
すなわち、単純化していえば、ほとんど厚生労働省の一言うことを信じるか信じないかという議論になってしまっていたのだ。
ここからも明らかなように、政策の進め方の順序がまったく逆だったのだ。
当時の議論をふりかえってみると、受け皿施設の問題については、介護保険事業計画との関係もバランスが悪い。
介護保険では、三年間を一期として市町村が介護保険事業計画を策定することになっているが、その基本指針として国は介護老人保健施設などのサービス提供量の枠を決めた「参酌標準」を定めている。
平成十八年度から平成二十年度までが第三期の計画であり、療養病床再編の方針が出たときには、すでにその枠が決められていたのである。
厚生労働省は、医療の必要性の低い患者の受け皿を確保するため、療養病床をただ削減するというのではなく、老人保健施設やケアハウスなどに転換することを病院側に求めている。
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